ご応募いただいた作品の中から、最優秀賞作品(1作)と優秀賞作品(3作)と佳作(10作)をご紹介させていただきます。
最近やっと、スタスタ歩けるようになった息子。
ベビーカーよりも低い視線で、見える世界は不思議がいっぱい。
お花を見つけては指さし、アリの行列を見つけてはしゃがみ、池にオタマジャクシを見つけては手を伸ばし。
初めは危険がないか周りばかり見ていた私も、いつしか、しゃがんで一緒に観察するように。
ああ、久しぶりの感覚。子どもの頃は、お花はこんな近くに見えていたなあ。
「パンジーよ。きれいねえ。」
と言うと、パチパチと手をたたく息子。つられて私も。
「アリさん、なにを探してるんだろうね。」
と言うそばで、巣の入り口をふさぐ息子。慌てて開通させる私。
「オタマジャクシはカエルになるのよ。また見に来ようね。」
と言った時には、もう水に手を入れている息子。急いで手を引く私。
生活の足元で起きている自然の営みに、子どもとじっくり目を向ける時間。
焦ることもあるけれど、それも含めて私の幸せな家族時間です。
いつか子どもと住むならば、月の見える静かな書斎を作りたい。
我が家では基本的に本は図書館で借りる。しかし、両親のお気に入りの本は本棚におさまっていて、ときどき私に薦めてくれた。今でも、外出自粛で暇をしている私が、なんか読むものない?と聞くと、文学部だった父は本棚から数冊の本を選んで出してきてくれる。読み進めていくと走り書きなんかを見つけたりして、昔の父と会っているような気がしてなかなか素敵である。
そんなことから、本棚でコミュニケーションをとるような家族時間を自分も作りたいなと思うのだ。
本に出てくるような月の見える書斎の窓辺に、夕飯の後に親子でたたずんでみたい。書斎を子どもと心通わせられる、静かな秘密基地にしたい。
都会の喧騒でなく、本当の夜の闇と静けさに囲まれじっと本と向き合う体験からは、きっと静謐で穏やかな言葉が生まれるだろう。そんな言葉をそっと紡げるような人になってほしい。
母の庭は、夏に大きなひまわりが庭いっぱいに咲きほこる。
家をぐるりととり囲むように植えられているひまわり。
2階の窓から眺めると、ひまわりたちが家を照らしてくれているようで誇らしい。
娘が2歳の夏に帰省したときのことだ。
庭で遊んでいると、散歩中のご婦人が通りかかった。
ふと足をとめ、ひまわりを見つめる。
中でも一番大きな2メートル近くあるひまわりの花をじっくり眺めてくださった。
「ばあばのひまわりだよ。大きいでしょ」
ひまわりを見つめるご婦人に気づいた娘が、得意気に自慢したのだ。
大きなひまわりの葉っぱの下から、ひょっこり現れた女の子にご婦人もビックリしただろう。
でもすぐにニコッと笑って「大きいね。あなたもひまわりみたいに大きくなるといいね」と言ってくださった。
わたしは、ご近所の方とわたしたち家族をつなぐこの家と庭が大好きだ。
十七歳の息子がいる。夫との三人暮らしだ。
いや、もう一匹。シェルティーという犬種のメス犬「ミュー」も家族の一員だ。
ミューの夜の散歩を家族三人でするようになって一年。おかげでその散歩の二十分間、星空を見上げながら、家族で話をするようになった。
今まで聞けなかった主人の仕事のこと、息子が話す学校での出来事、サッカー部での笑い話。そんな話を、ミューは聞いてるのか、時々振り返りながら前を歩く。
息子に彼女が出来たと教えてくれたのも散歩の途中だった。思春期であまり話しをしない息子だったが、こうして彼女のことを話す時の、少し照れた横顔はまぶしい。そして優しい。
月や星がわたしたちを見守ってくれているようにも感じる夜、この散歩の時間がずっと続きますようにと、空に願った。